高齢者や、そのご家族の中には「要介護認定を受けるには何をすれば良いの?」「そもそも要介護認定って何?」とお悩みの方も多いでしょう。
要介護認定とは「どの程度の介護が必要か数値化したもの」を指します。要支援・要介護に認定されると介護保険サービスが受けられるので、介護の負担を軽減させるためには知っておくべき制度です。
そこで今回は、要介護認定を受けるための申請方法や、認定基準などをご紹介します。要介護認定を受けた後に利用できる介護保険サービスについても解説するので、一人での生活が難しくなってきたご高齢の方やご家族の方は、参考にしてください。
適切な要介護認定を受けるには?
まずは、要介護認定を受ける上で知っておきたい基礎知識について解説します。
要介護認定区分早分かり表
要介護認定とは、どの程度の介護が必要かを数値で表したものです。介護の必要性により、大きく「要支援」と「要介護」の2種類に分けられます。
それぞれで受けられるサービスと、想定される身体状態について一覧表にまとめました。
要介護度 | 受けられるサービス | 想定される身体状態 |
---|---|---|
要支援1 | 介護予防サービス | ・日常生活のほとんどを介助なしで行える。 ・掃除などに一部サポートが必要。 |
要支援2 | 介護予防サービス | ・日常生活のほとんどを介助なしで行える。 ・運動機能の低下により一部サポートが必要。 |
要介護1 | 介護サービス | ・自力での起立・歩行が不安定。 ・認知機能の低下により、日常生活の一部に介護が必要。 |
要介護2 | 介護サービス | ・自力での起立・歩行ができないことも多い。 ・運動機能や認知機能が低下し、日常生活の一部に介護が必要。 |
要介護3 | 介護サービス | ・自力での起立・歩行が難しい。 ・日常生活の全般に介護が必要。 |
要介護4 | 介護サービス | ・自力での起立・歩行はほぼ困難。 ・日常生活全般に介護が必要で、意思疎通もやや難しい。 |
要介護5 | 介護サービス | ・ほとんど寝たきりで常時介護が必要。 ・意思疎通は困難。 |
要支援1・2は、日常生活のほとんどを自力で行える状態です。要支援に認定されると、自立した生活を継続するための入浴支援やリハビリサポートなど、「介護予防サービス」が受けられます。
一方、要介護1〜5は、要支援よりも介護の必要性が高い状態です。要介護1はある程度の日常生活は自力で行えるのに対し、要介護5に上がるにつれて認知機能や運動機能の低下が見られ、介護の必要性が高まります。
要介護認定の審査基準
要介護認定では、介護に関する以下の5分野について考慮されます。
介護分類の5分野 | 内容 |
---|---|
直接生活介助 | 入浴、排せつ、食事等の介護 |
間接生活介助 | 洗濯、掃除等の家事援助等 |
BPSD(問題行動)関連行為 | 徘徊に対する探索、不潔な行為に対する後始末等 |
機能訓練関連行為 | 歩行訓練、日常生活訓練等の機能訓練 |
医療関連行為 | 輸液の管理、じょくそうの処置等の診療の補助 |
上記の項目について、介護の手間にかかる時間、すなわち「要介護認定等基準時間」が算出されます。この要介護認定等基準時間と認知症の程度を検討し、要介護度が判定される仕組みです。
以下に、要介護度ごとの要介護認定等基準時間を示します。
要介護度 | 要介護認定等基準時間 |
---|---|
要支援1 | 25分以上32分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要支援2 | 32分以上50分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護1 | 32分以上50分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護2 | 50分以上70分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護3 | 70分以上90分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護4 | 90分以上110分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護5 | 110分以上又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護認定等基準時間は、介護施設の利用者3,500人を対象に調査した、独自の「1分間タイムスタディ・データ」に基づいて推計されます。家庭で実際に行われる介護時間ではなく、あくまで「ものさし」である点に注意してください。
要介護認定の判定方法
要介護認定を申請すると、認定調査が行われます。認定調査の流れは以下の通りです。
①訪問調査
市区町村の職員が自宅を訪問し、介護の必要度合いを74項目にわたり調査します。心身の状態についてご本人やご家族にヒアリングが行われるので、日頃の様子を答えられるようにしておくとスムーズです。
質問内容の一例
身体機能・起居動作に関する項目 | ・麻痺はあるか ・関節は動かしやすいか ・寝返りはできるか |
生活機能に関する項目 | ・移動・乗り移りはできるか ・食事・入浴・トイレは一人でできるか ・外出の頻度はどれくらいか |
認知機能に関する項目 | ・自分の名前や生年月日は言えるか ・今の季節や場所は把握できているか ・意思は伝えられるか |
精神・行動障害に関する項目 | ・目的なく動き回ることがあるか ・感情が不安定になることはあるか ・ひどい物忘れがあるか |
社会生活への適応に関する項目 | ・薬を正しく飲めるか ・預金通帳や小銭の管理をしているか ・日常の買い物はしているか |
特別な医療に関する項目 | ・点滴・透析・ストーマなどの状態 |
上記の項目に加え、お住まいの環境や家族の状況、現在受けているサービスなどについても聞かれます。普段できないことも「できる」と言ってしまいたくなりますが、適切な要介護認定を受けるため、現状を正直に答えましょう。
②主治医意見書
訪問調査と並行して、主治医意見書が作成されます。主治医意見書とは、かかりつけの医者が要介護認定申請者の傷病や心身の状態などを、医学的に意見する書類です。
主治医意見書の作成は、要介護認定の申請書類に記入された医師へ、市区町村が直接依頼します。よって申請者が病院へ依頼する必要はありません。
主治医意見書を作成する医師は、定期的に受診している病院の主治医が適任です。もし、かかりつけ医がいない場合は、市区町村指定の医師の診断を受ける必要があります。
③一次判定
①・②をもとに、コンピュータが要介護認定等基準時間を算出します。自動的に要支援1〜要介護5に分類されますが、この判定が最終決定ではありません。
④二次判定
一次判定の結果を、介護認定審査会にて協議します。介護認定審査会は保健・医療・福祉の専門家5名ほどで構成され、申請者それぞれの特別な事情などを考慮して、要介護区分を決定します。
特に要支援2と要介護1は、要介護認定等基準時間が同じのため、認知機能の低下具合や身体状態の安定性によって慎重に検討されます。
要介護認定を受けるにはどうしたら良い?
要介護認定を受けるには、いつどうやって申請をしたら良いのでしょうか。ここでは具体的な申請方法を解説します。
要介護認定を申請するタイミング
要介護認定を申請するタイミングは、特に決められていません。よって、介護サービスを利用したいと思った時点で申請すれば良いでしょう。
- 加齢による身体的変化で、日常生活を送りづらくなってきた
- 認知症の進行により、家族の負担が増えた
- 入院をしてしまい、退院後に介護が必要になった
実際のところ、上記のようなタイミングで申請する方が多いです。
要介護認定の申請方法
要介護認定は、市区町村の窓口に申請します。被保険者が申請するのが望ましいですが、本人が入院中などで申請できない場合は、代理で手続きを行うことも可能です。
代理申請は、家族や親族はもちろん、地域包括支援センター、居宅介護支援事業者、介護保険施設なども認められています。
また要介護認定の申請では、以下の書類を求められる場合が多いです。
- 要支援・要介護認定申請書
- 介護保険被保険者証(65歳以上の方)
- 健康保険被保険者証(40〜64歳の方)
- マイナンバーカードまたは通知カード
- 代理人身元確認書類(代理申請の場合)
要介護認定は、申請から約30日で通知されます。認定結果に納得ができない場合、まずはお住まいの市区町村窓口にご相談ください。
説明を受けても納得がいかない場合や、要介護度と本人の状態に明らかな差がある場合は、「不服申し立て」や「区分変更申請」を行うことも可能です。ただし、これらの再申請を行っても、希望の区分に認定されるとは限りません。
要介護認定のメリット
要介護認定を受けると、介護保険を利用して介護サービスが受けられます。具体的には、入浴・食事・家事のサポートや身体介助などを、料金の1〜3割負担で受けることが可能です。
また要支援・要介護に認定されなくても、要介護認定の申請をすることで、介護に向き合う良いきっかけが生まれます。
「介護が必要になったら、どこでどのように過ごしたいか」を事前に考えておくことは、老後のライフプランにおいて非常に重要です。
要介護認定後に介護サービスを受けるには?
介護保険サービスの利用方法
介護保険で利用できるサービスについて、表にまとめました。
介護の相談をする | 居宅介護支援 |
自宅に訪問 | 訪問介護(ホームヘルプ) 訪問入浴 訪問看護 訪問リハビリテーション 夜間対応型訪問介護 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 |
施設に通う | 通所介護(デイサービス) 療養通所介護 地域密着型通所介護 通所リハビリテーション(デイケア) 認知症対応型通所介護(認知症デイサービス) |
施設で生活する | 特別養護老人ホーム 介護老人保健施設 介護療養型医療施設 特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、軽費老人ホーム等) 介護医療院グループホーム |
宿泊する | 短期入所生活介護(ショートステイ) 短期入所療養介護(医療型ショートステイ) |
訪問・通い・宿泊を組み合わせる | 小規模多機能型居宅介護 看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス) |
生活環境を整える | 福祉用具貸与(レンタル) 特定福祉用具販売 住宅改修(リフォーム) |
介護保険サービスには様々な種類がありますが、利用するためには「ケアプラン」の作成が必要です。ケアプランとは「いつどのようなサービスを受けるのか」を記した、介護の計画書を指します。
要介護認定の区分によって、ケアプラン作成の窓口が異なるのでご注意ください。
要支援に認定された方
要支援の介護予防ケアプランは、自治体の地域包括支援センターが作成します。そのため、利用したい介護予防サービスがあれば、地域包括支援センターにご相談ください。
要介護に認定された方
要介護のケアプランは、居宅介護支援事業者が作成します。在籍するケアマネージャーと面談し、ケアプランが決定するため、希望のサービス内容を詳しく伝えましょう。
介護保険サービスの区分支給限度基準額
要介護度別に定められた、毎月利用できる介護保険サービスの限度額を「区分支給限度基準額」と言います。
要介護度 | 区分支給限度額(単位) |
---|---|
要支援1 | 5,032 |
要支援2 | 10,531 |
要介護1 | 16,765 |
要介護2 | 19,705 |
要介護3 | 27,048 |
要介護4 | 30,938 |
要介護5 | 36,217 |
介護サービスは、種類ごとに1単位あたりの単価が決められています。1ヶ月間の利用が区分支給限度額内であれば、1〜3割の自己負担でサービスを受けることが可能です。
上限を超えた場合でも介護サービスは受けられますが、超過分は自己負担しなければなりません。
要介護認定の有効期間に注意
要介護認定には有効期間が設けられており、定期的に更新する必要があります。
有効期間は原則として、新規で6ヶ月間、更新で12ヶ月間です。申請者の状態によっては3〜12ヶ月で有効期間が設定される場合もありますが、どちらにせよ自動更新ではありません。
更新を忘れてしまった場合は効力がなくなり、介護サービス費は全額自己負担になってしまいます。要介護認定を受けたときは有効期間を確認し、更新の申請時期を逃さないよう注意しましょう。
まとめ
要介護認定を受けるには、自治体の窓口に申請する必要があります。申請するべきタイミングは定められていないため、日常生活に不安を感じ始めた方は要介護認定を申請してみると良いでしょう。
また要支援や要介護が認められると、介護保険サービスが受けられます。介護の負担を軽減するためにも、訪問介護や介護施設などの利用を検討するのがおすすめです。