あなたは、認知症の高齢者に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか。TVなどのニュースでは、認知症の困った行動に対しての報道が目立つため、認知症になると大変、というようなイメージを持っている方も多いことでしょう。
しかし、認知症になったとしても、日々を穏やかに過ごし、その人らしく幸せに暮らしている人々はいます。
認知症には、中核症状と周辺症状の2つがあります。徘徊や暴言などの困った症状は、認知症の中核症状ではなく、その周辺の症状です。この、周辺症状は、生活環境や人間関係を改善させることで、緩和させることができますし、周辺症状自体が出ない人もいます。
では、どうすれば認知症の周辺症状をなるべく出さずに暮らせるのでしょうか。今回は、認知症になっても、穏やかな生活を送るための工夫についてお伝えします。
認知症は大きく2つに分けられる
認知症は徘徊や暴言など、介護者側を困らせるような行動をイメージする方も多いですが、それだけが原因で認知症と判断することはできません。
まず認知症は、中核症状と呼ばれる様々な体の変化をもとにして、医者が認知症と診断します。かつて認知症の「問題行動」と呼ばれていた、介護者を困らせてしまう症状は、呼び名が変わり、今は認知症の「周辺症状」や「BPSD」と呼ばれています。
中核症状が原因で、低下する機能の一例
短期記憶
昔のことはよく覚えていても、直近のことになると、忘れてしまいます。例えば、デイサービスに行った日に、そのことを尋ねると、「今日は家にずっと居た」、などと発言します。
判断力
何か決断する際に、良し悪しがわからなくなったり、正しい判断ができなくなります。例えば、必要のない高額な商品の契約をしてしまうこともあります。
問題解決力
自分の身に問題が起こったときに、頭が混乱してしまい、行動が起こせなくなります。例えば、災害が起こったときに、どう対応すればよいのかがわからなくなります。
時間や場所の認識
今の時間や、自分の居場所がどこなのか、わからなくなり、不安で周囲に何度も確認してしまいます。
計画性
例えば旅行に行こうとしても、段取りがわからなくなります。料理では、複数のメニューを同時進行で作ることが困難になります。
失語、失認、失行
例えば、知人の名前や物の名前がスムーズに出てこなくなったり、視力はあってもその物が何の役目があるのかがわからない、手足が普通に動いても、物を使って生活することが困難になります。
例えば、「歯ブラシと歯磨き粉」が目の前にあっても、それが何をするものかがわからない、歯磨き粉のふたを開けることができない、「鉛筆やペン」の使い方がわからない、文字が書けない、などです。
これらの中核症状がいくつか重なると、認知症と診断されます。
周辺症状・BPSD(かつての問題行動)の一例
・不安やイライラが増える
・被害妄想が激しくなる
・介護者に対して暴言や暴力をふるう
・家を突然出て徘徊する
・介護に対して抵抗する
・うつ状態
・幻覚や幻聴
・睡眠が昼夜逆転、不眠
・無反応
・不潔なことをする
・食べ過ぎ、食品以外を口にする
以上のことが、認知症の周辺症状(BPSD)と呼ばれるものです。こちらは、介護者の工夫次第で緩和することができます。
どうすれば周辺症状を和らげることができる?
認知症の周辺症状は、強く出る人と、あまり出ない人がいます。強く出てしまう高齢者の場合は、周囲の介護者がとまどったり、介護への自信をなくしたり、高齢者へ怒ってしまったりなど、周囲への悪影響を及ぼします。
一方で、周辺症状が安定している高齢者は、周囲の介護者も落ち着いて接することができますので、比較的おだやかな日常生活を送れます。
周辺症状を緩和するための3つのポイント
緩和するための3つのキーワードは、「観察・ヒアリング」「環境」「不快」です。不快をなるべく少なくし、快適な毎日を送ることができれば、周辺症状は軽くすることができます。
①観察・ヒアリング
家族は、まず何よりも認知症の本人がどう感じているのか、何をしてほしいのか、という欲求をよくヒアリングすることが大切です。対話が難しければ、観察をし、気が付いたことをメモに取りましょう。介護者にとっては、ヒアリング力が問われる大事な場面です。
②環境を改善
さきほどの観察結果や、ヒアリングした情報をもとに、環境を改善します。
具体的には、最初に取り組むべき事として、家の中の片付けです。いきなりバリアフリーの工事を申し込んで安心する人がいますが、それは順番が逆です。お金をかけて全面バリアフリーになったとしても、家の中の物の量が多すぎると、生活しづらいことに変わりはありませんし、危険です。
認知症の高齢者に限らず、私たち人間は、自分が把握できる以上の物の量を前にすると、思考が停止状態になりがちです。
例えば、仕事から帰って、家が荒れていればリラックスなどできませんし、家でリモートワークをしようとしても、片付けができていないと、集中できませんよね。
認知症の高齢者も、私たちと同じで、自分でできることが少なくなっている状況の中で、物が多すぎると、余計混乱し、イライラが増してしまいます。その結果、暴言につながったりもします。
家の中の物を適量にすると、高齢者と介護者にこんなメリットがあります。
その他、何十年も物に埋もれていた、過去の写真や懐かしい物が出てくる可能性もあります。家の中が片付いていれば、そのような過去の物を飾る余裕も生まれますし、それを懐かしみながら会話をすることもできます。認知症の高齢者にとって、思い出は大切な宝物です。片付けを通して、一番大切なものが見えてくるのです。
③不快を徹底的に取り除く
家の中の片付けが順調に進めば、だいぶ暮らしやすくなってきます。あとは日々、高齢者の「不快」をなるべく取り除くようにします。
暑い、寒い、痛い、の不快はよくあることですが、排せつに関しての「不快」も考慮する必要があります。
便秘を解消する工夫
・食物繊維を多めにとるようにする
・水分の適切な摂取
・散歩などで毎日体を動かす
・食後にトイレに行く習慣をつける
排せつの不快に関しては、育児でも共通することがあります。まだ言葉を話せない赤ちゃんは、オムツが汚れたり、便秘が続くと、泣いて不機嫌になります。逆にそれを解消してあげると、元気になり一人遊びを始めたりするのです。
認知症の高齢者も同じで、排せつの不快をなるべく早く取り除いてあげることが大事です。
また、次のように、認知症の高齢者への接し方を見直すことも、本人のストレス軽減につながります。
不快を軽減させる接し方
・何度も同じことを聞かれたとしても、怒らない
・本人の気分がのらないことがあれば、時間を置いて対応する
・物事を否定したり、失敗を責めない
ただし、この接し方は、介護者が気疲れしてしまうというデメリットがあります。その場合は、デイサービスや外部の介護サービスを上手く利用して、介護者自身が休める時間を確保するのも、大切です。
まとめ
認知症の中核症状は少しずつ進行していきますが、その周辺の症状は、介護者の工夫次第で、緩和させることが可能です。身の回りで改善できることは、意外とたくさんあります。
周辺症状が少しずつ緩和されていく姿を目の当たりにすると、介護者のやる気もますますUPしますし、介護にやりがいを感じられるようになります。そう考えてみると、介護をするのが楽しくなってきませんか?
介護で身についた観察力やヒアリング力は、介護以外の仕事や人間関係でも役に立ちます。認知症の高齢者から教わることは、意外とたくさんあるのです。
あなたと高齢者が、しあわせな毎日を過ごせますように、願っています。