「介護うつ」とは何か知っていますか?介護の疲れや、ストレスによって引き起こされるうつ病を、介護うつと呼びます。
介護うつは、適切な介護サービスやサポートを受けることで、発症リスクを減らせる病気です。
そこで今回は、介護うつになりやすい人や症状、予防法などについてご紹介します。セルフチェック表も記載するので、ご自身やご家族に介護うつの傾向がないか確認してみてくださいね。
- 「これから介護を始めるので、介護うつにならない方法を知りたい」
- 「介護疲れが溜まっていて、介護うつかもしれない」
- 「介護うつになりそうだけど、どこに相談したら良いか分からない」
上記のようにお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
介護うつって何?
「介護うつ」という言葉は聞いたことがあっても、具体的な原因や症状は知らない方も多いのではないでしょうか。ここでは介護うつとはどんな病気なのか、なりやすい人はいるのかなどについてご紹介します。
介護うつとは
介護疲れや、介護によるストレスが原因で起こるうつ病のことを、一般的に「介護うつ」と呼びます。うつ病は気分障害の一種で、脳がうまく働かなくなっている状態です。
日本人では、100人のうち約6人がうつ病を経験しているというデータもあります。気の持ち方でどうにかなる問題ではなく、「心の風邪」と言われるほど、誰でもかかり得る病気です。
特に介護は、精神的・身体的・経済的に大きな負担がかかります。休むこともままならず、先が見えない状態が続くと、ストレスや疲れが溜まってしまうのも無理はないでしょう。
そうした状況で介護うつが引き起こされるのは、珍しいことではありません。
介護うつの症状【セルフチェック】
介護うつでは「気分が落ち込む」などの精神的な症状をはじめ、「体がだるい」などの身体的症状が出ることもあります。以下は、介護うつでよく見られる症状です。
- 気分が落ち込む
- やる気が出ない
- 何事にも興味や関心が持てない
- 不安・焦り・イライラを感じる
- 集中できない
- 悲観的になる
- 口数が少なくなる
- 外見・服装を気にしなくなる
- 頭痛・耳鳴り・めまいがする
- よく眠れない
- 食欲・性欲がない
- 下痢・便秘をする
- 胃やお腹が痛い
セルフチェック表(DMS-Ⅳ 大うつ病エピソードの診断基準)
以下①②のうち1つ以上かつ、全ての項目で5つ以上当てはまれば、うつ病の可能性があります。なるべく早く、精神科や心療内科を受診しましょう。
- 憂鬱な気分が続く
- 何に対しても興味や喜びが湧かない
- 食欲の減退または増加、体重の減少または増加が見られる
- よく眠れない、または寝過ぎてしまう
- ソワソワとしてじっとしていられない、または話し方や動作が遅くなった
- 疲れやすくなった、または気力が出ない
- 「自分には価値がない」「上手くいかないのは自分のせいだ」と感じる
- 物事に集中できない、または物事を決めることができない
- 死や自殺について何度も考える
介護うつになりやすい人
うつ病にかかる原因は、いまだ解明されていません。しかし、うつ病になりやすい性格としては、以下のようなタイプが挙げられます。
真面目で責任感が強い
義理堅く、人に頼まれると断れないタイプです。人と意見がぶつかったときには自分が折れ、周囲のルールや秩序に合わせることが多いでしょう。自分の中に疲れをため込んでしまう傾向があります。
完璧主義
義務感が強く、几帳面に物事を行うタイプです。自分が定めた目標に対して頑張りすぎてしまったり、自分のような真面目さを周囲にも要求したりしてしまう傾向があります。
社交的で人当たりが良い
親切で気さくですが、八方美人で優柔不断とも言えるタイプです。物事を決断するときに悩みすぎてしまい、ストレスを感じる傾向があります。また激しく感情が動くことも多く、情緒不安定になりやすいでしょう。
介護うつの予防法・治療法はある?
介護うつを予防する方法や、介護うつになってしまったときの治療法を説明します。
介護うつを予防する方法
介護のストレスや疲れを溜めないために、以下の3つが大切です。
自分の性格や考え方を知る
自分がどのような性格かを知ることで、ストレスを感じやすいポイントが分かります。自分の考え方や行動を見直し、なるべくストレスを溜め込まないよう改めてみましょう。
性格・考え方 | 改善方法 |
---|---|
人に頼まれると断れない | キャパオーバーしそうなときは、断る勇気を持つ |
義務感が強く、自分がやらなければと思ってしまう | 周囲のサポートや介護サービスを活用しながら、みんなと一緒に介護を行う |
完璧な介護を目指している | 思い通りにいかないことが多いことを知り、100%の介護を目指さない |
正しい介護の知識をつける
介護の負担を軽減するためには、利用できる介護サービスや、正しい介護の方法を知ることが大切です。
例えば、訪問介護やデイサービスなどの介護サービスを利用することで、介護にとらわれない自分の時間を持つことができます。
また寝返りや起き上がりの正しい介助方法を学べば、介護時の体への負担も軽減できるでしょう。さらに介護保険には、介護の費用を抑えるための制度もあります。
少しずつ正しい介護の知識をつけることで、介護にまつわる精神的・身体的・経済的負担が軽減可能です。
一人で抱え込まない環境をつくる
他の家族や親族がいる場合は、役割分担を決めて全員で介護を行うのが理想です。
日本の風習で「親の介護は長男の妻がするもの」と思っている方もおられますが、一人で介護をすると、ストレスや疲れを溜め込んでしまいます。
介護が必要になれば、なるべく早く兄弟姉妹や配偶者などを集め、誰がどのように介護にあたるのかを話し合うと良いでしょう。
一方、近くに頼れる方がいない場合は、困ったときの相談窓口を知っておくことが大切です。
介護の仕方でお困りのときはケアマネージャーや地域包括支援センター、誰かに話を聞いてほしいときは自治体などが行なっている「介護家族の会」などが活用できます。
介護うつを治療する方法
介護うつの症状が見られたときは、「そのうち良くなる」と放置してはいけません。適切な治療を行い、回復させる必要があります。
介護うつの治療方法は、主に以下の3つです。
休養
ストレスの原因である介護から離れ、心と体をしっかりと休めます。可能であれば他の家族に介護を代わってもらったり、施設への入居を検討するのが良いでしょう。
責任感が強く真面目な方は「周囲に迷惑をかけて申し訳ない」と感じることもあるかもしれません。しかし、焦らずに十分な休養をとることで、早めの回復が望めます。
薬物療法
うつ病は脳の病気なので、他の病気と同じように薬での治療が有効です。
基本的には「抗うつ薬」が用いられますが、症状に合わせて「抗不安薬」「睡眠導入薬」「気分安定薬」が用いられることもあります。薬は医師の指示に従って、適切に服用しましょう。
精神療法
介護うつの原因になったストレスを振り返り、対処方法を学ぶのが精神療法です。代表的な精神療法として「認知行動療法」があります。
「認知行動療法」では、医師やカウンセラーなどとの面談を通して、困難に直面したときの捉え方や考え方の癖を探ります。
悲観的な考えや捉え方を変えることで、ストレスとの付き合い方を改善することが可能です。
介護うつが改善しないと感じる場合
うつ病は、回復するまでに時間がかかる病気です。調子が良い日と悪い日を繰り返しながら、一進一退で回復するのが一般的なので、焦らずに治療を続けましょう。
「薬を飲んでも良くならない」「気分が良くなってきたから、もう薬を飲まなくても良いだろう」と感じる方もおられますが、自己判断で薬を中断するのは危険です。
適切な治療を行うためにも、薬の服用方法は医師の指示に従ってください。
介護うつかな?と感じたときにやること3つ
介護を続けていくなかで辛い思いを抱え、「もしかして介護うつかも」「介護うつになりそう」と悩んでいる方も多いかもしれません。
ここでは介護の負担が増えてきたときにできることを、3つご紹介します。
周囲に相談する
介護は肉体的にも精神的にも、大きな負担を感じるものです。「しんどい」「辛い」という思いを一人で抱え込んでしまうと、心が壊れてしまうのも当然でしょう。
自分一人での介護に孤独を感じてしまったり、辛さを誰かと共有したいという場合には、友人や家族などに相談すべきです。また、周囲に心配をかけたくないという方は、電話相談などを活用する手もあります。
さらに、お住まいの自治体の相談窓口や地域包括支援センター、居宅介護支援事業所などには、介護のプロが集まっています。
あなたのお悩みに寄り添いながら、具体的なアドバイスを提案してもらえるので、お気軽にご相談ください。
介護サービスの利用を見直す
介護サービスには、さまざまな種類があります。普段から負担に感じていることをケアマネージャーに相談し、適切なサービスをケアプランに組み込んでもらいましょう。
負担軽減のために活用したい介護サービスの一例を、以下に記します。
介護サービス | 特徴 |
---|---|
訪問介護(ホームヘルプ) | 身体介護・生活援助などが自宅で受けられる |
通所介護(デイサービス) | 主に朝から夕方までを施設で過ごす |
短期入所(ショートステイ) | 最大30日間連続で、施設に宿泊できる |
福祉用具レンタル・購入 | 車椅子や電動ベッドなどがレンタル可能 |
住宅改修 | 手すり取付などの自宅のリフォームが可能 |
例えば、日中の自分の時間を増やしたいときは「デイサービス」、旅行でリフレッシュしたい場合は「ショートステイ」を活用するのが良いでしょう。
介護サービスは、介護者の負担を減らすためにも使用できます。それぞれの状況に適したサービスを、うまく活用してください。
介護施設への入居を検討する
介護の負担が大きい場合は、介護のプロがいる老人ホームの利用も検討してみましょう。
- 「家族を見捨てるようで、入居させたくない」
- 「入居してほしいけど、気を遣って言いにくい」
- 「他の家族が反対する」
上記のような理由で、介護施設への入居を敬遠する方も少なくありません。しかし、一番大切なのは「高齢者と介護者の双方が、快適な暮らしを送ること」です。
介護者が介護うつになってしまえば、適切な介護ができなくなり、結果として高齢者の生きづらさにも繋がってしまいます。
介護施設は探し始めてから入居まで、数ヶ月〜数年かかることもあるので、なるべく早いうちから介護施設の利用を検討しておくことが大切です。
まとめ
介護は突然必要になることも多く、準備や覚悟がないままに介護をする方も少なくありません。そのため介護者の精神的・身体的・経済的負担は大きく、一人で抱え込むことで、介護うつのリスクも高まります。
介護うつにならないためには、周囲のサポートや介護サービスをうまく受けながら、介護を行うのが大切です。
介護うつは誰にでも起こりうる問題なので「介護疲れやストレスは溜まっていないか」「自分の心と体の健康は保てているか」を定期的に確認しながら、介護と向き合いましょう。